エグゼクティブ・サマリー
異分野データ連携の背景
- G8オープンデータ憲章(2013)や各国のオープンデータ政策を受け、政府のデータポータル上で多種多様なオープンデータを積極的に整備。オープンデータの世界的な潮流の中で、様々なオープンデータを分野横断的に利活用し、国際的な環境問題の解決や住民参加による社会的課題の解決に向けた活動が活発化。さらに、オープン・スマートシティに代表されるように、IoTデータを利活用しエネルギー・交通など都市リソースの最適化や災害時の安心・安全の保障、住民の生活品質(QoL)の向上に資する付加価値の高いサービス開発に期待
- スマートIoT推進フォーラム 異分野データ連携プロジェクトでは、IoTデバイスやウェブ等からのデータ、国・地方自治体が公開するオープンデータや利活用範囲が広まりつつあるG空間データ、さらには参加者自らが保有するデータとの新しいデータ連携を目指して、異分野ソーシャルビッグデータの横断的な流通・統合を行うための課題を検討。異分野データ連携の在り方について、基盤技術、社会実装の両面から課題を整理・体系化し、技術報告書の公開等を通じた提言を行う。研究開発・社会実証プロジェクト部会に属する4プロジェクトの1つ。産学官から21機関37名のメンバーが参加(平成28年12月時点)
異分野データ連携のケーススタディ
- 実空間データの分野横断的利活用による環境問題対策支援では、センシングデータ、科学データ、ソーシャルメディアデータ等を対象に、時間・空間・概念的な相関性を分析し分野横断的な検索や予測を行う技術を開発。ゲリラ豪雨や大気汚染等の環境問題による様々な被害発生のリスク分析に利用
- スマートシティを実現するソーシャルビッグデータ利活用・還流基盤では、IoTセンサーからウェブまで、多種多様なセンシングデータを透過的に取得・流通させる仮想センシング基盤を開発。オートモーティブセンシング(ごみ収集車による環境データ収集)や、市職員による参加型センシングによるごみ資源情報等の収集・整理に活用
- 地理空間(G空間)情報アーカイブでは、官民が保有するG空間関連データを共有・提供し、データを円滑に組合せて利活用するオープンデータ・プラットフォームを構築。また、G空間情報センターによる利活用サービスを提供:①G空間情報の流通支援、②政府・自治体向け「情報信託銀行」、③G空間情報の研究開発、④災害対応情報ハブ、⑤G空間オープンソースハブ
- 大規模ドライブレコーダデータに基づく運転者指向サービスでは、交通・物流事業者から数千台、数千運転者規模のドライブレコーダデータを収集。ドライバーの運転操作の特徴を抽出し運転経歴や事故履歴との相関を分析することで、運転者管理や運転者教育に活用。さらに、特定の運転操作が頻発する道路の箇所を発見・可視化することで道路の潜在的なリスクを発見し、運転者への注意喚起や道路改善につなげる
- 「はたらく車」走行データによる自治体業務の高度化では、公用車数百台から走行データ(OBD2等)を収集。公用車のカーシェアリングに向けたや稼働率や走行範囲の分析・管理や、道路保全業務に必要な路面性状の経時変化の取得の簡易化、防犯パトロール経路の最適化等に活用。走行データと活用モデルをオープン化し、活用モデル開発の促進や、他自治体でのモデル活用により都市間での比較・評価を行い自治体経営に還元
- 地域に密着したデータ利活用の実践では、東京都中野区をフィールドとして、地域に密着したピンポイントな気象データの収集・配信や、商店街に設置したビーコン型センサーで取得したスマートフォンの移動データによる詳細な人流解析を実施。災害発生時の避難誘導と平時の商店街活性化の両方に活用することで、自治体と協力しながら持続可能なデータ収集と利活用を実現
異分野データ連携の課題と提言
- データの横断的利活用技術に関する課題
- 実空間データのデータ形式やスキーマの共通化
- 実世界の様々な事象・現象(イベント)を表すデータモデルと、それらの時空間的・意味的な関係に基づくデータ操作に基づく共通スキーマの定義
- データプラットフォームによる時空間情報の表現形式(測地系等)やデータ構造(JSON, XML等)の相互変換、画像・PDF等への時空間情報の付与
- 巨大な実空間情報を手軽に扱えるようにすべく、データの時空間的な内挿化や分割を高速処理する技術の開発
- 安心・安全なデータ利活用のための技術
- センサーの種類や計測方法、キャリブレーション方法、検出限界値など、データ取得・生成に関する品質をメタデータに追加
- 第三者から入手したデータの生成・加工・流通経路(data provenance)を明らかにするトレーサビリティ技術や、データが本物であり一切の改竄を含まないことを証明する真贋性保証技術の開発
- プライバシー保護に加え、データのリアルタイム性に配慮した秘匿化手法の開発
- データの縮尺や鮮度、用途等によって異なる情報の有効範囲について、データの提供者、利用者間でコンセンサスを形成する仕組みが必要
- データプラットフォームにデータへのリンクのみを登録し、検索や閲覧は可能にするがデータ本体の譲渡は選択可能にすることで、データの利活用拡大と知財保護を両立
- データ利活用におけるスケーラビリティの向上
- 多様化・豊富化するデータを横断的かつリアルタイムに処理できるよう、エッジ、フォグ、クラウドコンピューティングを効果的に連携させ処理全体を最適化したり、アプリケーションとデータ流通基盤の間でデータ量や更新頻度等を動的にマッチングする技術の開発
- 従来のデータ利活用技術(収集、統合,検索,分析,可視化等)を、マルチスケール、マルチモーダル、マルチメディアなデータソースに対応できるよう拡張・強化
- データプラットフォームに、データ本体だけでなく、データへのリンクを登録しリンク経由でアクセスできるようにすることで、ビッグデータの大規模なリアルタイム流通を実現
- IoT社会に向けたデータ連携基盤構築の課題
- 社会システムとデータ連携基盤の統融合
- 都市や地域全体でデータを有機的に流通させ、データ利活用を通じた社会システムの最適化・効率化を実現
- エネルギーや交通など都市リソースの最適化だけでなく、市民生活の品質向上(QoL)や安心・安全の保障など付加価値の高いスマートシティサービスの開発
- 様々な組織や団体から提供される多種多様なデータをワンストップで検索・入手できるデータ・マーケット・プレイスや、クラウド上でデータ・マッシュアップを行える環境を整備。災害時だけでなく平時も利用できるようにすることが重要
- データ流通から価値流通へのシフト
- 国、自治体、国、企業、個人など様々なステークホルダーの間で、データの提供とその利活用による対価の関係を構築し相互にインセンティブを持たせることで、実空間に関するデジタル情報を「財」として課金を伴って流通させるプラットフォームを実現
- 課題解決指向なデータ利活用に向けて
- データ駆動型の課題解決
- 自治体に散在している地域情報は地域政策立案の基礎資料としての価値を有しており、官民で蓄積されている実空間情報と組み合わせて有効活用すべき(オープンデータ2.0、官民データ活用推進基本法など)
- データ利活用の目標設定や評価・改善においては、業務全体の最適化・効率化など、課題解決による価値を重視することが重要
- データ保有者が抱える課題から始めて信頼関係を構築し、然る後にデータ保有者が気づいていなかった利活用へと発展させることが重要。そのためには、データ保有者の課題に興味を持ち、データ解析を行うことができる研究機関とのマッチングをサポートする組織の介在が必要。研究機関、メーカーとその顧客企業の3社が密に連携を取り、相互にメリットのある連携を組むことが成功の鍵
- データ利活用を介した協働の促進
- コミュニティ全体で積極的にデータを共有し課題解決に取り組むことが重要(ガバメント2.0 等)。データの収集、共有、分析を共同で行うことで課題に対する集合知を形成し、課題解決の効率化や未知の課題への迅速な対応を促進